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『人外境の花嫁』一.異界の漂泊民 (八)

『人外境の花嫁』 

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一.異界の漂泊民 (八)

戦争が終わって十年が経つ。

もはや戦後の荒廃は跡かたもなく、日本は経済成長の道を突き進んでいる。

家・車・テレビジョン・洗濯機。

豊かな生活に乗り遅れまいと、大人は目の色を変えて働き、子供は有名大学を目指して受験勉強に余念がない。

そんな世知辛い世相が蔓延した日本で、住所不定、義務教育を受けていない子供がいるなど、寛三は俄かに信じられなかった。

(ミソソクリ?)

頭の中を整理できないまま、寛三は少年にW型の金具がついたヨーヨーの釣り針を渡してやった。

不意に少年の背後に人影が迫った。

「あんた、何しよるの!」

「姉ちゃん」

少年は頭を叩かれ、ヨーヨーの釣り紐を水槽に落ちした。

先ほど杉林の蔭にいた少女だった。

アセチレンランプに照らされた少女は、中●生ぐらいの年頃だろうか、黒髪をお下げに愛らしく結っている。

だが少年と同じで着ているものは汚くみすぼらしかった。

地味なかすりの着物に、かつては黄色だったと思われる茶色の帯を巻いている。

おそらく子供の頃につくったのか、丈は寸足らずですっかり膝が見えていた。

少女は弟の頭を押さえて寛三に謝った。

「ごめんなさい。私達お金は持っていないんです」

少女が腰を屈めると、ゆるい襟の合わせから、膨らみ始めたばかりの乳房がちらっと覗いた。

つづく…

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『人外境の花嫁』一.異界の漂泊民(七)

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一.異界の漂泊民 (七)

寛三は少年に声をかけてみた。

「坊主、ヨーヨー釣りがしたいのか?」

「うん」

きらきらと目を輝かせる少年は無邪気に頷いた。

「坊主はこの一木集落の子供か?」

「ううん、オレ、山に住んどる」

少年はたどたどしく答えると、すっかり陽が暮れた山々を指差した。

「そうか、まだ山奥に猟師か炭焼きの家があるんだな」

寛三は合点がいった。

深山に住む者ならば、現代の生活から取り残されていても不思議ではない。

だが少年は首を振った。

「オレ、ミソソクリじゃけん、家は持たん」

「ミ、ミソ・・?」

九州地方の方言だろうか、寛三には少年の言葉がよくわからなかった。

「しかし家を持たんって・・それならどこで飯を食う? どこで寝ているんだ?」

「山の河原じゃ。洞穴があればそこで暮らすこともある」

「・・それじゃ物乞いじゃないか」

「オレらは物乞いじゃない。大きな山をいくつも越えて、あちこちの村を回って商売しとる。だから家などあったら邪魔になろう?」

ふんと笑った少年は、鼻から垂れた青っ洟を袖で拭った。

確かに世の中には、昔から各地を渡り歩く稼業がある。

旅役者、サーカス、薬売り、養蜂家、むろん寛三が稼業とする香具師もそうだ。だがそれは出稼ぎに近く、定住する家がないわけではない。

寛三は困惑した。

「でも小学校へは行っているんだろう?」

「行かん。ミソソクリは学校など行かんでもいい」

少年は急に語気を強めたが、少し目を伏せて悲しそうな表情を見せた。

つづく…

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『人外境の花嫁』一.異界の漂泊民(六)

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一.異界の漂泊民(六)

やるせない光景だった。

戦争で両親を失った戦災孤児が、焼け野原となった横浜に溢れていた。

駅や公園で野宿をしながら、靴磨きや物乞い、集団で窃盗に手を染める子供達もいた。

結局彼等は社会から見捨てられ、愚連隊やヤクザに身を落とした者が多かった。

寛三も両親を横浜大空襲で失った。

浮浪児と呼ばれる年齢ではなかったが、二つ年上の兄とともに、住む家を焼かれて食べるものにも事欠く日々を送った。

兄弟二人でバラックの家を建て、米や芋を求めて農村へ買い出しに回った。

生きるのに必死だった。

だが生きるためだと言いながら、勇ましく一億玉砕を叫んでいた人々は、一夜にして米兵の軍靴を舐めんばかりに跪いた。

子供はチューインガムを、男は米軍キャンプの金網越しに残飯シチューを物乞いした。

そして貞操のため自決を覚悟した女も、ネオンの巷で米兵に両脚を開き、競い合ってその妾になろうとする始末だった。

鬼畜米英は何処へ行ったのか。

両親は何のために死んだのか。

犠牲者である浮浪児を蔑ろにして、敵国に頬ずりする厚顔無恥な社会に、寛三は今も激しい憤りを捨てきれずにいた。

ふと寛三は我に返って、あどけない少年の顔を見た。

(だがここは都会ではない)

浮浪児が貧しくとも生き残れたのは、たくさんの人が行き交う都会だったからである。

靴磨きにしてもスリにしても、山奥の集落では、稼ぐ余力など皆無に等しいだろう。

山の恵みで生きるにしても、年端もいかぬ少年では、ウサギ一羽狩ることもできないはずではないか。

つづく…

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『人外境の花嫁』一.異界の漂泊民(五)

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一.異界の漂泊民(五)

不意に強い風が山から吹いてきた。

境内の裏に迫る森がざわっと騒いだ。

露店の幟や暖簾がはためき、アセチレンランプの光がゆらゆらと揺れた。

暗がりとなった御神木の辺りに、寛三は小さな人影か動くのを見た。

(おや、子供か?)

小●生低学年ぐらいの少年と中●生ぐらいの少女が、こちらの様子を窺っているようだった。

祭に来た姉弟だろうか、それにしてはいつまでも森の木陰から出て来ようとしない。

寛三はその姿に違和感を覚えた。

目を凝らすと、洋服が当たり前の昨今、二人ともぼろぼろの着物を身につけていた。

しかも髪はぼさぼさで、今年封切られた『七人の侍』に出てくる百姓のようだった。

二人は言い争っていた。

露店へ行きたがる少年を、年上の少女が懸命に宥めているように見えた。

だがアセチレンランプの誘惑に堪えられなかったのか、少年は少女の手を振り切って露店へ駆け寄ってきた。

「夜なのに昼間みたいだ」

少年は一頻り露店の間をはしゃぎ回ると、ヨーヨーが浮く水槽の前にしゃがみ込んだ。

「わあ、きれいじゃ」

目を丸くした少年の円らな瞳に、色取り取りのヨーヨーが写っている。

明るいところで見ると、やはり集落の子供達とは違って、少年の身なりはひどくみすぼらしかった。

垢と埃でごわごわになった着物は、黒光りするほどに汚れ、むっと鼻を突く獣のような臭いがした。

(浮浪児か?)

寛三は少年の姿を見て、忘れかけていた終戦直後の横浜を思い返した。

つづく…

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『人外境の花嫁』 一.異界の漂泊民(四)

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一.異界の漂泊民(四)

娘は七歳。

今が一番可愛い年頃かもしれない。

仕事とは言え、近くにいてやれない不憫さが胸を締めつける。

何日も家に帰らない父を、娘はどう思っているのだろうか。
今夜も妻と二人きりの晩ご飯を食べながら、家族団欒で卓袱台を囲む友達を羨んではいるまいか。
休日も大好きな遊園地へ連れて行ってもらえず、やくざな父の稼業を恨んではいるまいか。

そして妻も。

妻は寛三より五つ年上で、愚連隊時代に飯を食わせてくれた水商売あがりの女だった。

男で苦労を続けて来た妻は、平凡な堅気の結婚生活を望んでいた。
まさか亭主が香具師になり、全国各地へ稼業の旅へ出るとは思っていなかったろう。

(今頃あいつは・・)

娘を産んだとは言え、今も男の目を惹く三十路の熟肢が、孤閨をしっかり守らせているか不安が残った。
決して美人ではないが、流し目が妙に男心をそそる色年増である。

毎夜寛三は商人宿の煎餅蒲団で懊悩した。

娘の愛らしい笑顔と妻の淫らな白い肌が、代わる代わる瞼に浮かんでは消えていく。
今すぐ露店など放り出して、横浜にいる家族の許へ帰りたい。そんな衝動に駆られる夜が九州へ来てから幾夜も続いた。

旅稼業と残してきた家族。

香具師を天職と心に決めた寛三にとって、家族は後ろ髪を引かれる足手まといなのかもしれない。
だが家族への情は、人間が生まれながらに持つ自然な感情に他ならない。

寛三は相容れない葛藤の荒波に、今宵も密かに心を揺さぶられていた。

つづく…

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『人外境の花嫁』 一.異界の漂泊民(三)

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一.異界の漂泊民(三)

逢魔が時を迎えた神社の境内にも、いつしか深い森から闇が忍び寄ろうとしていた。

寛三はアセチレンランプに火を入れた。

ポッと炎が灯ると、独特の臭気が辺りに拡がっていく。

相変わらず客は疎らだった。

水槽からヨーヨーを一つ取ると、寛三はパンパン突きながら歌を口ずさんだ。

「夜が冷たい心が寒い~渡り鳥かよ俺等の旅は~風のまにまに吹きさらし」

東海林太郎の『旅笠道中』が、寛三は幼い頃から好きだった。
無宿人の博徒が浮き草暮らしを嘆く歌だが、逆に寛三はそんな気ままな放浪生活に憧れた。

生来の天邪鬼。

整然と世を泳ぐイワシの群れに、寛三は悪心すら催した。

愚連隊に入ったのは、がんじがらめに縛られた社会への反抗心からだった。
そして香具師社会の門を叩いたのも、社会に背を向けたまま旅の空で死にたいと願ったからだった。

暇を持て余した剛志が隣で呟いた。

「兄貴、俺さあ、早く横浜に帰りたいよ」

「俺達は香具師稼業に草鞋を脱いだんだ。帰る家などない風来坊だと思え」

「でもよ・・本当は兄貴だって横浜のネオンが恋しいんだろう?」

「馬鹿野郎、そんな甘ったれた根性で香具師が務まるかっ!」

寛三は里心がついた剛志の頭へヨーヨーをぶつけた。

だがそれは寛三自身への戒めだった。

旅へ出て一カ月、剛志はまだ独身だが、寛三には横浜に残してきた妻と娘がいた。

つづく…

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『人外境の花嫁』 一.異界の漂泊民(二)

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一.異界の漂泊民(二)

前年にテレビ放送が始まったこの年は、春日八郎の『お富さん』が大ヒットし、戦後の暗い世相もすっかり影を潜めていた。

朝鮮戦争特需で息を吹き返した経済は、劇的な回復の兆しを見せ、国民の生活にも豊かさが戻りつつあった。

足立寛三と川嶋剛志は、横浜の神農会に身を寄せる香具師である。

神農とは、古代中国における伝説上の皇帝で、香具師の祖として守り神にされている。

香具師は、博徒や極道とは異なり、露店でのささやかな商いを生業とする稼業人である。

神農会はその協業組織で、もぐりでない香具師は大概、○○会、○○一家と呼ばれる各地の神農会に所属している。

寛三は二十五歳、剛志は二十二歳。

横浜の愚連隊にいた頃から、二人は仲のいい兄弟分だった。

愚連隊は、戦後混乱期に勃興した不良青少年達の暴力集団である。横浜ではモロッコの辰と呼ばれた出口辰夫や、吉水金吾、林喜一郎らが有名で、一時はヤクザや博徒を凌ぐ力を誇ったが、今はその勢力下に組み込まれつつあった。

寛三と剛志も愚連隊衰退の煽りを受け、昨年横浜の神農会組織である若葉会に草鞋を脱いだのだった。

香具師としての修行を終えた二人は、今年の夏、初めて福岡への稼業の旅に出た。そして九月からは熊本へ移り、人吉市を地盤とする西山一家を頼って、山奥に埋もれた僻村、ここ一木集落の秋祭りへ訪れたのだった。

つづく…

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『人外境の花嫁』 一.異界の漂泊民(一)

         人外境の花嫁

官能小説家、降矢木士朗は語った。
『人類原始の性的乱交は共産主義の出発点なんだよ』
異界の民、乱姦、性宴の邪教、そして驚愕の最終章・・・

満を持して紅殻格子が放つ異色官能小説。
緩み切った官能小説界を戦慄させる本格官能作品です。
最後までお楽しみ下さい。

『人外境の花嫁』 

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一.異界の漂泊民(一)

昭和二十九年。

九州、球磨地方。

空が熟柿色に染まっている。

四方に連なる稜線は漆黒の影となり、山腹の斜面にへばりついた家々が、夜の闇にじわじわと呑み込まれていく。

神楽笛の音が、夕暮れの山峡にもの哀しく木霊する。

山深い僻村の秋祭り。

射的、綿菓子、金魚すくい。

小高い山を背にした神社の境内には、十軒ほどの露店が並んでいた。

客の姿は疎らだった。

ヨーヨー釣りの番をする足立寛三は、夕焼け空を見ながら煙草に火をつけた。

「けっ、しけた山奥の秋祭りじゃ、稼ぎもたかが知れているな」

「本当っすね、兄貴。さっき神主を捕まえて聞いたら、この集落には子供が十人しかいないらしいですよ」

カルメ焼きを売る弟分の川嶋剛志も、退屈そうに大きな欠伸をした。

すると飴細工を拵えていた老人が、ギロリと鋭い目で寛三達を睨みつけた。

若い衆よ、香具師にはな、商いよりも大切にしているものがあるんじゃ」

「・・はあ」

「ここは西山親分の故郷よ。だから儲けがなかろうと、義理を欠かすわけにはいかないんじゃ」

老人は凄みを利かせた表情で、寛三に出来上がったニワトリの飴細工を渡した。

今にも鳴き出さんばかりの見事な細工に、香具師として駆け出しの寛三は、ただ平身低頭して詫びるしかなかった。

つづく…

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再開  紅殻格子のつぶやき(25)

再開  紅殻格子のつぶやき(25)

今日は2018年4月10日(火)です。

ずっと『妄想の座敷牢』は放ったらかしてきたことを深くお詫び申し上げます。

なかなか書く時間がなかったのも事実ですが、書く意欲自体が薄れてしまっていたのも事実です。

今年56歳になります。

もうサラリーマン人生も予備役に入り、四月から仕事の環境も以前より楽になりました。

また家内亡き後の子育てもひと段落して、老境に向けて成すべきことを考える年代に突入しました。

私には小説しかないのだと思います。

もちろん大それたものではありませんが、読者がいる限り書き続けたいと今心揺さぶられています。

しかしすぐには新作を書くのも難しい状況です。

そこでリハビリを兼ねて、掲載削除した『人外境の花嫁』を手直ししながら掲載していこうと思います。

さてさて、どうなりますか?

あの頃に書いたものと今書くものではプロットや結論も変わるかもしれませんね。

是非お楽しみに。



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二十三夜待ち 第二十二章 (最終章)

二十三夜待ち 第二十二章 

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昭和三十二年の春だった。

蕎麦屋の主人夫婦が仲人となって、寛三と小鶴はささやかな結婚式をあげた。

「寛三、いい嫁をもらったな。お前もこれで一人前だ」

蕎麦屋の主人は結婚の餞に暖簾分けを許してくれた。
寛三はこつこつ貯めた金と主人の支援で、横浜の港湾労働者が暮らす街で小さな店を開いた。

僅かに四人がけのテーブル席が五卓あるだけの店だったが、寛三が打つ蕎麦と行商で鍛えた小鶴の接客で繁盛した。

小鶴は幸せだった。
やがて二人の子供を授かり、小鶴はおんぶに抱っこで店へ出て働いた。
寛三は心配してくれたが、小鶴は働いていないとこの幸せが夢になりそうで怖かった。

やがて東京オリンピックを契機に、モータリゼーションと言われる車社会が到来した。
自動車の普及が進み、船や鉄道が主流だった貨物輸送もトラックやダンプへと変わって行った。

小鶴はそこに目をつけた。

自家用車と違って、大型のトラックやダンプの運転手は、昼飯を食べるのにも駐車場探しに苦労する。
そこで街から離れた国道沿いに、大型車用の駐車場を持つ支店を出してみた。

するとこれが大当たりした。
蕎麦以外のメニューも豊富に揃えて店の数を増やし、今では関東圏で百店舗を超える外食チェーンにまで成長していた。

寛三は五年前に鬼籍に入った。

「あの時・・お前と一緒になって本当に幸せだった・・」

「それは私も同じですよ」

寛三は亡くなる間際、小鶴の手を握って涙を流した。
小鶴も子供のようにわんわん泣いた。

時代もあるし、持って生まれた境遇もある。
だが人生は自分でつくるものだと千代は教えてくれた。

運命など後出しジャンケンのようなものだ。
一瞬一瞬で下す判断の累積が人生だろう。
ボロアパートで寛三の胸に飛び込んだ勇気は、それまで小鶴が積み重ねてきた人生の結論なのである。

空が仄かな赤みを帯びて、房総の山々へ影を落とし始めていた。

「母さん、そろそろ横浜へ戻らないと、夜の会食に間に合わなくなりますよ」

「もうこんな年寄りが銀行との会食に出なくてもいいだろうが?」

「それは困りますよ。メインバンクの頭取は母さんと話をするのを楽しみにしているんですから」

「外房の勝浦辺りへ出れば、のんびりと今晩泊まれるホテルが空いているじゃろう」

「我が儘言わないで下さいよ、母さん。あなたは従業員五百人を抱える企業の会長なんですよ。
まだ現役で頑張って貰わないと、従業員達が路頭に迷ってしまうんですよ」

いい年をした息子に懇願されて、小鶴は渋々車に乗り込んだ。

「やれやれ」

月出山の山頂に大きな満月が姿を現した。
それは幼い頃に観た月と何一つ変わってはいなかった。

閉幕

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プロフィール

紅殻格子 

Author:紅殻格子 
紅殻格子は、別名で雑誌等に官能小説を発表する作家です。

表のメディアで満たせない性の妄想を描くためブログ開設

繊細な人間描写で綴る芳醇な官能世界をご堪能ください。

ご 挨 拶
「妄想の座敷牢に」お越しくださいまして ありがとうございます。 ブログ内は性的描写が多く 含まれております。 不快と思われる方、 18歳未満の方の閲覧は お断りさせていただきます。                
児童文学 『プリン』
  
『プリン』を読む
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
『プリン』
だが彼が探し求めていたものは、 競走馬の名誉でも栄光でもなかった。ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。
日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
『プリン』を読む

作 品 紹 介
※ 小説を読まれる方へ・・・   更新記事は新着順に表示されますので、小説を最初からお読みになりたい方は、各カテゴリーから選択していただければ、第一章からお読みいただけます。
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